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簡単には。


題  簡単には。



確実に、違うと思っていたのに。
梶原 実(かじわら みのる)は、返って来た答案用紙を見つめて心の中で呟いた。


適当に、丸した所も。
適当に、順番をつけた所も。


(全部、合ってるなんて)


世の中、そう簡単には物事いかないと言うのが通例なのに。


時には、こんな事もあるものだと感嘆した。


「へぇー。梶原、すげぇじゃん」

「お、あ、おぉ」


隣の席の石田 博仁(いしだ ひろひと)に、答案を覗き込まれて少し慌てながら梶原は頷いた。


「何、お前。今回のテスト、全然勉強してねぇって言ってなかった?」

「あぁ」

「本当は、勉強してた…って、顔じゃねぇな?」


石田は、梶原の自分を見つめる顔に浮かんだ表情に苦笑しながら、


「じゃあ、適当?」


と続けた。


「おぉ。完璧、適当」

「適当で、こんだけ当たればすげぇじゃん!」

「だよなー。俺も、驚いた」

「宝くじでも、買えば?」

「え?何で?」

「運で、当たっかも?じゃん」

「当たるかよ」

「わかんねぇじゃん?」

「じゃあ、買う。億万長者になりてぇし!」

「あはははは」


真面目顔で頷いた梶原に、石田は声をあげて笑った。



******



ジャンボ宝くじを、バラで十枚購入した結果。


梶原は、一万円と三百円の「ご当選」となった。


(お、俺、すげぇ!)


宝くじ売り場で換金してもらった現金ちゃんを財布につめながら、思わず顔がにやけそうになる。
梶原のそんな姿を、後ろで見ていた石田は、


「マック!マックで良いからおごれよなー」


と、梶原の足を軽く蹴りながら、笑って言った。


「俺には、もしかして秘めたパワーとかあるのかも、な?どう思う、石田」

「ないと思う」

「マジかよ」

「そんな簡単にいかんよ、人生だよ?」

「いや、そうだけどよ。才能っての?それは、見つけようとする気持ちと信じる心が大事なんじゃねぇ?」

「まぁ、自分をどう思うかは、ご本人の自由だと思うけど?」


石田は、おごってもらったテリヤキチキンを食べながら、ポテトをフリフリした。


「石田。俺に、宝くじを買えって言ったのお前じゃん。なのに、何だよその応対は」

「いや、宝くじ買えくらいは、普通誰でも言うんじゃねぇの?ほら、おみくじで大吉出たとかあればさー、宝くじ買わなきゃとかさ、買ったら位言うじゃんか」

「そうなのか?」

「そうだよ」

「じゃあ、これはまぐれか?まぐれ当たりか?」

「そんなのオレが、知るかよー。わかんねぇよ。第一、それが分かったらオレのが梶原よりすげぇって事じゃん」

「あ、そうだな!石田、お前頭いいな!」

「……梶原、全部まぐれだって思っとけば?そっちのがお前、幸せだよ。うん。オレ、そう思う」

「なんだよ、石田。その目はよー」


梶原は、石田のちょっと遠い感じの視線にぶうたれると、自分のポテトをむしゃむしゃと食べた。
コーラもぐびぐび飲む。
飲みながら、石田の言う通りだろうなと梶原も心の中で思った。

人生なんて、そうそう簡単にはいかないのだ。
その証拠に、億万長者になりたかったのに一万長者止まりだ。
テストの結果だって偶然だろうから、次はないだろうし。
まぁ、ちょっとラッキーくらいと思うのが丁度良い所だろう。


(まぁ、ちょっとラッキー…?)


「あ!」

「な、何だよ、いきなり」


石田は、急に自分を指差して大きく「あ!」と言い出した梶原に、一瞬面食らった。


「だって、俺。気が付いた!」

「は?何が?」

「石田、俺は確かに一万円と三百円を手にした!」

「あぁ、そうだな」

「だが、俺は三千円を支払った」

「まぁ、宝くじ買ったからな」

「つまり、俺はリスクを負っていた事になる」

「確かにな。でも、まぁ、結果プラスになったんだから良いじゃん」

「そうだな。まぁ、結果ラッキーだったからな。でも、石田。お前はどうだ」

「え?オレ?」

「お前は、俺に宝くじ買えばってすすめただけじゃん?それで、マックじゃん?実はお前の方が、ラッキーなんじゃねぇの?俺、今、それに気づいたんだよ。お前、ノーリスクでラッキーじゃん!」

「ま…、まぁ、言われるとな。そうだな。ごちになります!」


石田は、梶原の意見に頷くと、ぺこりと頭を下げた。


「おぉ!俺、マジ感動だよ。本物のラッキー見ちゃった感じだよ!」

「そうか?ってか、梶原怒ってる?」

「いや、全然!だって、俺、お前のお陰で得したわけじゃん?俺は、リスクラッキーだけどさ。きっと、世の中には、ノーリスクラッキーな奴って居るんだぜ。石田みたいな奴の、もっとすげぇバージョンのがさ、きっと居ると思わねぇ?そう考えたら、世の中簡単にはいかないって言うけどさ、簡単にいくやつも居るかもじゃん!」

「梶原。お前、次のテストはちゃんと勉強して受けた方が良いと思うよ、オレ」

「そうか?」

「あぁ。お前、ちょっとおバカさんだ」

「ひでぇ、石田!」

「あははは。悪い悪い」


笑いながら片手をあげて謝る石田を、軽く小突くと梶原は一緒になって笑った。



******



石田に言われた通り、とりあえず勉強をして受けたテストは、まぁ勉強して受けたら取れるよなという点数だった。
梶原は、隣の石田に答案を見せると、


「まぁ、人生ってこんなもんだよな?」


と笑った。



          おわり
by yoseatumejin | 2010-05-10 01:19 | 短文/(計19こ)


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