過日(16)

 手当てが終わると可南子さんは、
「実は、私も圭介さんとおしゃべりしたかったんですよ。でも、いっつも麻里香に取られてたの『ママはあっち行って!』って。だからこうして圭介さんと話す機会が出来て、とっても嬉しいわ」
 とニコッと笑いました。突然そう言われた僕は、大変恐縮してしまって
「いや、まぁ....はい」
 と真っ赤になってしまいました。可南子さんは、そんな僕の態度が可笑しかった様でくすくす笑うと、「少し残念だけど」と呟きました。
「少し残念だけど、明後日の朝、私達帰るんです。いつもここには一週間お邪魔する事にしてるんですよ。それで、明日はみんなでお別れパーティをしようと思っているんです。「志のや」の仕事が終わってから花火するだけなんですけど、よろしかったら圭介さんもご一緒しませんか?」
 可南子さんにとっては社交辞令に近い何気ない勧誘だったのかもしれませんが、その言葉は僕にとっては大変嬉しいものでした。
「やります。楽しそうですね」
 僕がコクリと頷いて即答すると、可南子さんは
「家の旦那には気を付けて下さいね」
 と笑いました。可南子さんにそう言われた僕は
「どうしてですか?」
 と素直にその訳を聞いてみました。すると麻里香ちゃんが嬉しそうにやって来て、僕の耳元に顔を寄せて
「パパね、花火もっておっかけてくるんだよ。『がおーっ』ってゆうの」
 と教えてくれたのでした。
 僕がくすくす笑いながら厨房に戻ると、丁度慶吾さんがユキノさんと話をしていました。僕の姿を見つけたユキノさんが大丈夫?と声をかけてくれたので、大丈夫だと頷きました。
「圭介くん、男の勲章ってやつか?」
 僕達のやり取りに気付いた慶吾さんが、僕の顔を見て殴る真似をしました。
「はい、今可南子さんに手当てしてもらったんですよ」
 と僕が答えると、慶吾さんは大げさな顔を作って
「あー、あいつが手当てしたのか。大変だぞ。直るもんも直らん」
 と笑うのでした。
「何、可南子さんに失礼な事言ってるんですか」
 あっけらかんとしている慶吾さんの背中をユキノさんはパンと叩いて呆れていましたが、僕は麻里香ちゃんがいつも明るい理由はここかな?と思ったのでした。

  つづく
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by yoseatumejin | 2005-02-04 11:03 | 文/過日(全38回)


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