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過日(22)

「颯くん、それは?」
 僕は話を変えようという気持ちもあって、颯くんが着ているウエットスーツを指さして聞いてみました。聞かれた颯くんは自分の腕をチラと見て、
「あぁ、今から海獣(かいじゅう)にサーフィン付き合わされるんだよ。あ!圭介。あいつの事は海獣と呼べ!海十だなんて絶対言うなよ!な!」
 と途中から答えではない事を言い、僕の左肩にガシッと手を乗せるのでした。僕が、颯くんの気迫に押されて思わず「うん」と首肯くと、海十さんが横から
「呼んで良し!その代わりオレは圭ちゃんとお前を呼ぶ!いいな、男と男の約束だ」
 と言い、僕の手を握って男と男の約束とやらを交わさせたのでした。よく分からない状況に流されながらも僕が
「どうして、海獣さんなんでしょうか?」
 と素朴な疑問を口にすると、海十さんは
「海が十個でカイジュウです」
 と言い、自分で言ってやっぱり自分でウケた様で一人で大笑いするのでした。
 それから海十さんは、仏壇に挨拶が終わった様で立ち上がり
「じゃあ、圭ちゃん。お荷物よろしく、オレは海に行く」
 と僕に自分の鞄を渡しました。
「あ、はい。お部屋に置いておきます」
 僕がそう言って仏間を出ようとしたら、
「海獣、何圭介を顎で使ってるんだよ!」
 と颯くんは僕を引き止めました。それからは....大変でした。
「オレは、お客様じゃん」
「自分の家だろ、自分で持って行けよ海獣」
「オレの部屋なんか、とっくの昔にありゃしません」
「毎年毎年、同じ部屋使ってるんだから分かるだろ!」
「分かりませんわ。毎年来てるだけの、ただのお客ですもの」
「ただの客の割に態度がデカ過ぎるんだよ。何様だよ!」
「お客『様』だよ、お客様。だから態度デカくていいんだよ!颯はお客様でもないのに態度デカいな〜」
「うるさい、海獣を客だなんて誰が言うかよ」
「圭ちゃんは言ってくれるよね」
「あ、はい。そうだよ、颯くん。海獣さんはお客様だし、僕が持って行くよ?」
「ほら、圭ちゃんはやさしーねぇ」
「圭介は、黙ってろ!」
「はい」
 という状況で、僕は本当にどうしていいやら何だかもう、こんな感じを犬猿の仲と言うのだろうか?とか途方に暮れると言うのだろうか?とか思って困り果ててしまったのでした。そこにユキノさんがタイミング良く出て来て
「海十さん、颯!さっさと海に行ってらっしゃいっ!」
 と二人を止めてくれたので僕は心底よかったと安堵したのでした。二人はそれでも納得がいかない様で、ぶつぶつ口論しながら出て行きました。僕は去って行く二人を見送りながら
「海獣さん、インパクトの強い人だ........」
 と思わず呟いてしまったのでした。ユキノさんは呆けた顔でそんな事を呟いた僕を見て、
「海十さん、すごく張り切ってるのよ。圭介さん、ああいうタイプの人は初めて?」
 と嬉しそうに聞きました。僕はユキノさんにそう言われて真っ赤になったのですが素直に
「はい。びっくりするけれど、楽しくていいですね」
 と頷きました。僕の答えを聞いたユキノさんはくすすっと笑うと、
「でしょ。私楽しい人大好きなの。圭介さんもきっと海十さんの事好きになるわ」
 と言い、「二人だけど、頑張ってやりましょ」と僕の肩を叩きました。

  つづく
by yoseatumejin | 2005-02-18 10:50 | 文/過日(全38回)


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