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おてまみセッテ(05)

 午後、菜奈子と健太郎は『わんぱくコース』なるルートを順々に制覇してスタンプを捺印して行くアスレチックへ行く事にした。
 あの後、暫く大泣きしていた健太郎であったが、菜奈子の『泣きやんだら、アイス』の一声でケロッと機嫌を直していた。菜奈子は現金に物に釣られた健太郎にクスと苦笑すると『今度から、急な所で走っちゃ駄目だからね』と注意して、綺麗に丘を転げた健太郎の姿を思い出して一人でカラカラと笑ったりした。
 だがその後、菜奈子は健太郎を笑った事を後悔した。それは、健太郎のためにと選んだ小さな子供向けのコースである『わんぱくコース』を自分もやる破目になったからであった。菜奈子に一人でカラカラと笑われた健太郎は、反撃のチャンスを狙っていたらしくコースの入口に着くと『ナナコもちゃんとやるの!』と駄々っ子攻撃に出たのである。菜奈子は健太郎の申し出に一瞬『多分、目立つよねぇ....』と思い止まったが、健太郎のお願い光線に負けて一緒にやるのも楽しかろうと『いいよ』と頷いてしまったのであった。が、現実はやっぱり恥ずかしい事この上なかったりした。
「わんぱくって言うだけあって、キツイ!」
 菜奈子は、後ろからやって来る子供に時々ズボンを掴まれながら丸太を渡りつつ、色々な意味でそう言った。それは、小さな子供向けコースだけあって何でもかんでも大人には小さく逆に遣りづらいからであり、他の親達が子供の手を引いて地面をたらたら移動している中、自分一人が一度健太郎を支えて渡った後子供達に混じってへし合い押し合いしなければいけないからでもあった。
 しかも、一つやる度に『ぜんぶできるかな?』なんて書いてあるスタンプ台紙にスタンプを押すために列に並ばなくてはならないので、健太郎が側に居るとは言っても恥ずかしさは絶大だったのである。
「健太。私もう、ずっごく恥ずかしいんだけどぉ....」
 菜奈子は、わくわく顔で順番を待っている健太郎の後ろに立つと懇願する様にそう言ってみたが、
「だめっ。ナナコもちゃんとやるの!」
と健太郎はあっさり却下してくれたのだった。
 そして一時間後。菜奈子はやっと『わんぱくコース』という名の『恥ずかし地獄』から出られた事にホッと胸を撫で下ろした。
「疲れた....」
 菜奈子は健太郎の手を引きながら、そう呟いて嘆息した。健太郎はそんな菜奈子にニコッと笑いかけると、
「たのしかったね、ナナコ!」
と嬉しそうな顏をした。
「うん....たのしかったーぁ〜あ....」
 菜奈子は嬉しそうな健太郎の笑顔にやる気なげにそう答えると、曖昧な渇いた笑いを零したのだった。
 出口を過ぎた所で
「お疲れ様でしたぁー」
と声をかけられた菜奈子は『はい?』と振り返った。見ると、そこには入口でさわやかに二人を見送ってくれた(事の成り行きをご存知の)お兄さんが立っていた。さわやかお兄さんは同情を込めた笑顔で菜奈子を見つめると、もう一度
「お疲れ様でした」
と言った。菜奈子は、そのニカッとした同情の笑顔に困った様に笑い返すと、
「どうも〜」
と返事を返した。さわやかお兄さんは、菜奈子の返事に大きくニッコリ頷いた後、視線を下に動かして『お子様向けサワヤカスマイル』を健太郎に向けると
「ちびちゃんも、がんばったねぇ」
と笑った。そして、健太郎が自信満々で差し出したスタンプ台紙二枚を受け取ると、
「凄いね、全部できたんだー」
と健太郎の頭をカイグリカイグリした。
「うんっ」
 健太郎は褒められて嬉しかった様でこくと頷くと、菜奈子のズボンをちょっと摘んで含羞んだ。菜奈子は、先まで自信満々だったのに褒められて急に照れ出した健太郎が可愛くて、
「健太、本当に頑張ったもんね」
と言うと、自分の後ろに隠れている健太郎の頭をなでなでしたのだった。
 それから二人は、『やったね!かんぜん、せいはだ!』という文字が踊るスタンプを押してもらったスタンプ台紙二枚と、参加賞のどんぐり一袋をもらった。
 さわやかお兄さんは二人にそれらを渡すと
「このどんぐり、食べられるんですよ。でも、電子レンジでチンする時は切れ目入れて下さいね」
と補足した。菜奈子はその説明に、『たぶん食べないな』と思いながらも
「入れないと、どうなるんですか?」
と社交辞令の意味もあって質問した。が、菜奈子の質問を聞いたさわやかお兄さんは、少しサワヤカさを残しつつもニヒルな笑みでもって
「爆発しますよ」
と楽しそうに答えたのだった。それを聞いた菜奈子は、胸の内で一瞬『えっ....爆発っ!?』と思った後、慌てて健太郎の顏をバッと見つめた。....案の定、菜奈子が見た健太郎の瞳はキラキラと輝いていた。
「ばくはつ〜!?」
「そうだよ、爆発しちゃうんだよ」
「ほんとに!?」
「本当だよ」
 菜奈子は、そんな危険極まりない会話に慌てて健太郎の手を引くと
「じゃあ、帰ろうか。健太」
とニッコリ笑い、さわやかお兄さんにも大人の礼儀として一礼し、心の中で『絶対、このどんぐりどっかに忘れた振りして捨てる!』と誓ったのだった。
 結果、菜奈子の誓いは達成された。
 菜奈子はロッカーから荷物を取り出す時に、『うっかり!カバンの中に入れたと思ってたどんぐり達が、実は入ってないわ!アラ大変、忘れちゃったね大作戦』を展開したのである。

  つづく
by yoseatumejin | 2005-05-31 15:14 | 文/おてまみ(全10回)


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