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おてまみセッテ(08)

 一時間後、健太郎は手紙を書き終えると、
「ぜったい、みちゃだめ!」
と言いながら、菜奈子への手紙を菜奈子自身に糊付けさせた。菜奈子は封をする間中
「ちょっと見たいな〜、ちょっとだけ見たいな〜」
と健太郎におねだりしたが、健太郎は
「だめ!」
と絶対に見せない心積もりの様だった。中身を見る事を諦めた菜奈子は、ちぇっと悔しそうな顏を作って見せた後、
「ねぇ、健太。ここに私の名前と、こっちに健太の名前を書いて」
と封筒に宛名を書いてもらう事を提案した。健太郎は、菜奈子の提案に
「いいよ」
と清まして答えると
「でも、みちゃだめだからね!」
と付け足して、ばっと手紙を奪い取った。菜奈子は、
「えー!それも見ちゃだめなの〜」
と齢四歳相手に暫し駄々を捏ねてみたが
「ぜったい、だめっ!」
と結局却下されてしまったのだった。
 二人は、お昼を食べ終えると散歩に出かけた。アパートの近くの公園は、シーソーとすべり台しかなく昼過ぎだという事もあり他の子供達の姿を見る事はなかった。二人は暫くシーソーをして遊んだ後、すべり台に行った。が、健太郎はすべり台を『すべる』事が怖い様だった。菜奈子は、
「こわい」
「こわい」
と小さく呟きながら、滑らずにズリズリと音を立ててずり降りて来る半泣きの健太郎の姿に、『昨日のアスレチックで、すべり台に行こうと言わなかったのはこういう事ね』と合点して
「健太、おかしー!」
と大笑いした。あっけらかんと菜奈子に笑われてしまった健太郎は、
「ひどいぃ」
と帰る道々そう言って泣いた。
「ごめんってば。健太が可愛くって、ついつい笑ったの」
 菜奈子は『しまった、また泣かせた』と途方に暮れながら健太郎に謝ったが、健太郎は菜奈子の顔を見上げてると、
「ひどいぃ」
とまたまた泣いたのだった。
 菜奈子はそんな健太郎の姿に『もうこの手しかないわね』と心に決めると
「うん、酷かったね。でも、機嫌直して健太。帰ったら、牛乳プリンが健太を待ってるよ!だからもう泣かないで、ね」
と慰めた。健太郎はそう言われて、しゃくり上げながら暫く恨めしそうに菜奈子の顔を見上げた後、
「もうわらっちゃやだからね!」
と言った。そして、健太郎の許してくれそうな気配に一も二もなく頷いて『うん、分かった!もう絶対笑わないよ』と言った菜奈子の姿に安心した様で、
「わかった....もうなかないもんね」
と約束通り泣くのを止めてくれたのだった。菜奈子は機嫌を直してくれた健太郎の手を引きながら、心の中でホッと胸を撫で下ろし大人の最終手段『モノで釣る』が成功して良かったと安堵したのであった。

  つづく
by yoseatumejin | 2005-06-27 14:07 | 文/おてまみ(全10回)


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