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白ちゃん挿絵付「I can't mint the Iron」(05/全5回)終わり

 僕は、サカっちゃん家の門をくぐると、病院になっている正面玄関をまず覗いてみた。
 まだ、九時前だったけれど、診察待ちのお客さんが数人か、早々とロビーのソファに座っていた。
 でも、サカっちゃんの姿はなくて、僕はいつもの様に裏手にある家側の玄関に向かってみた。
 そして、そこに廊下に立たされているみたいに、玄関扉の前に突っ立っているサカっちゃんの姿を見つけて、そのいつも通りの姿に笑いが出そうだった。
「サカっちゃん」
「あ、よかった。来てくれて。もう、怒ってない?....チキコちゃんってば、呼んで来い!呼んで来い!って煩くって大変だったんだ」
「そうですか....ありがとう、サカっちゃん」
「ううん。ボクは、何もしてないし」
 とサカっちゃんが言った瞬間、まるで後頭部に中る事を決められたみたいに玄関が勢い良くガン!っと開いて、サカっちゃんにヒットしていた。
「痛っ〜....」
「あ、ゴメン」
「酷いよ、チキコちゃん....」
「謝ったじゃん」
 チキコは恨めし気なサカっちゃんの視線を一瞥で黙らせると、僕を上から下までジロジロと眺め回した。
 そして、僕の頭をワザワザ包帯を巻いている右手で小突いた。
「............ちょっと、謝んなさいよね」
「ごめんなさい」
「何それ!あっさりとさ!心こもってなさすぎだわ!」
「そう言われても....」
 チキコのサカっちゃんへの謝罪に比べたら、良いと思う。と言うと面倒だから言わなかった。
 僕はその代わりに、チキコのバッグを持ったまま歩き出した。
「ちょっ!ドコ行く気よ!」
「........中学校」
 きっと僕が一生行く事がない場所だろうから、今日ももちろん校門までだけど。
「でも、今日だけだから」
「何よ!あんた、この怪我が一日で治ると思ってんの!?」
「姉さんには、サカっちゃんが居るじゃん」
「サカキは弟じゃないじゃない!」
「........。........姉さん、僕。ずっと昔から思ってたけど、姉さんってバカだよね」
「なんですって!!」
 ギャース!と怒り出したチキコに僕は笑い出さずに居られなかった。
 チキコのテンションはやっぱり吸血鬼には高すぎだよ。
 でも大好きだなって、思う。
 サカっちゃんは、ぎゃんぎゃん怒るチキコの手を慌てて掴むと「ダメだよ....ダメだよっ、傷に響くよ!」と気弱な声で訴えていた。


 騒ぎながら歩いていたせいで、チキコ達の中学校に着いた時には、とっくに一限目が始まっている時間だった。
 校舎には沢山の生徒が居るんだろうって思うけれど、誰も居ない校門前に立っている僕達から見ると、ひっそりと静まり返って誰も居ない印象を受けたりした。
 チキコは僕が持って居たバッグを引ったくるように奪うと、ぎゅっと両手で抱きかかえた。そして、
「....ありがとう。昨日、大ッ嫌いって言ったけど、アレ取り消すわ」
 と照れくさ気に目を泳がせた。
 僕はそんなチキコに『うん』と頷いて、サカっちゃんが小さく『仲直りだ』と呟くのを聞いた。
 きっとサカっちゃんは大人になってもこのままなんだろうな。と思う。もちろん、チキコもチンチキ度があがったとしてもこのままだろう。
「姉さん」
「何よ....急に改まって....気持ち悪いわね」
 泳がせていたチキコの目線が、僕の足下に落ちてるのが分かる。
 僕は、チキコの言う様に改まる事を気持ち悪いなと思ったけれど、言わない方が良いのかもしれなかったけれど、でも言わずに去るのもなんとなく嫌で、チキコと目線を合わせるために一歩足を前に踏み出して、
「今日まで、ありがとう」
 と素直な言葉を使った。
 本当に、吸血鬼がこんなに感謝の心で一杯なんて気持ち悪くてしょうがない。
 似合わないったらない。
 きっと僕はこの三年間で、吸血鬼らしからぬ吸血鬼になってしまったのだ。
 チキコは僕の言葉に、僕の視線に、
「............本当に気持ち悪いわねっ....」
 と悪態を吐きながら、でも、やっぱりイヤだと言う様に首を振った。
「........ねぇ。どうにかしなさいよ。あの変なクスリ、飲んでもあんたに害がないなら飲んで良いから....。飲んで飲みまくって、ずっと一緒に居なさいよっ........私の弟で居れるなんて、あんた幸せ者なのよっ!」
「姉さん。........ごめん。姉さん....」
 もし、タブレットを無理矢理飲んで、チキコにもう一度『幻惑』をきちんとかけても、チキコが僕に向けてくれる関心の度合いが下がる事はない気がする。
 それだけならまだ問題ないかもしれない。
 けれど、チキコが僕に向けてくれる関心は、他の人へも影響する。....その所為で、僕の存在が生み出す矛盾は大きくなる一方だろう。
 その歪みを直せる程の幻惑能力を、僕が使えるはずもなかった。
 サカっちゃんは僕達の会話に、疑問符の浮いた顔をして僕等を見ながら....けれど、何も口を挟まずに立っていた。
 いつも、サカっちゃんはこんな風に僕達を見守るのが得意だった。
 チキコは、僕から視線をサカっちゃんの方に向けると、持っていたバッグをドンっと押し付けた。
「うわっ、何!?」
「....っ持ちなさいよね!私、怪我人だよっ」
「あ、そうだね。ごめんね」
「........バカサカキ!」
 そう叫ぶと、チキコはまた八つ当って、バッグごとサカっちゃんを両手で押した。そして、よろけるサカっちゃんを見て、フンと鼻でセセラ笑うと、不意にくしゃっと顔を歪めた後、『うぇーん』と本当に子供みたいに泣き出したのだった。
 その泣き方は、もう中二だと言うのに、色っぽさの欠片もなかった。
 チキコは、エンエン声を上げて泣きながら、僕の頭をペチっと一発ひっぱたくと、グイっと自分の胸の中に僕を引き寄せて、嫌々と首を振った。

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「嫌よっ....!あんたは、ずっと私の弟だもん!........っ一緒に!来年も!こどもの日のケーキを食べるんだもんっ!」
「姉さん........」
「........何が吸血鬼よ!....何が幻惑よぉー....!嫌よ!!絶対、嫌だからねっ!!」
「............」
 僕は、ベタンと地面に座り込んで、僕に抱き付いて泣きじゃくるチキコを見下ろして....苦しいけど、呆れたフリで溜息をこぼしていた。
 出来るなら、子供みたいだと笑って、チキコを抱き締め返してあげたかった。
 けれど....別れなきゃいけないのにそんな情をあげる勇気なんて....僕には、到底持てそうもなかった....。
 だから僕は、溜息の後で取り繕う様にサカっちゃんを見上げると、
「はぁ....。ごめん、....サカっちゃん....」
 と苦笑していた。
 サカっちゃんは、僕の視線を暫く見つめた後。
 チキコのバッグを地面に置くと、何か言いたいけれど何も言葉が浮かばないというのが分かる困った笑顔を僕に向けた。
「良いの?」
「............はい」
「分かったよ」
 頷いた僕を確認すると、サカっちゃんは、後ろからチキコの両脇に手を入れてこしょこしょとくすぐった。
「うわっ....や!....あははっ....止めろっ....!バカ!」
 くすぐったがりのチキコは、サカっちゃんの攻撃に一発で撃沈すると、泣きながら笑って怒った。
 そして、サカっちゃんは、チキコの手が僕から離れた瞬間を見逃さなかった。
 それは、幼なじみ故の手慣れた感じで、チキコはあっさりサカっちゃんに背後から羽交い締めされ捕まると、悔しさを全開にして『放せぇ!!』と叫んでいた。
「ありがとう、サカっちゃん」
「........うん。あの....じゃあ。....えっと....気を付けて....いってらっしゃい」
「........。いって、きます....」
 ただ協会施設に戻って、眠りにつくだけなのに。
 僕は、なんとなく事情を察したらしいサカっちゃんからそう見送られて、どうしたら良いか分からなかった。
 胸が詰まって、泣きたい....という感覚を覚えて戸惑わずに居られなかった。
 吸血鬼である僕にも、こんなに色々な感情が湧くのだと....僕は、ずっとずっと知らなかったのだ。
(........ありがとう、姉さん)
(........ありがとう、サカっちゃん)
 ぎゅっと一回、目を瞑ると、僕はチキコとサカっちゃんを見つめた。
 サカっちゃんに捕まったまま、涙と怒りで顔を真っ赤にしているチキコは、僕の視線を感じると、
「何が『いってきます』よ!!あんたまだ、子供じゃないっ!........っ」
 と、キッと僕を睨み返して怒鳴った。
 その....チキコの顔は、やっぱり僕の『姉』だった。
 血も繋がらない人間と吸血鬼だけど、間違えなくチキコは僕の『姉さん』だった。
「姉さん....っ、さようなら」
 僕は二人に幻惑をかけながら、チキコが言う通り、自分が『子供』だって事が本当に悔しかった。
 きっと、もっと、大きかったら....。
 もっと、もう少し長く、一緒に暮せたのに。
(チキコの『弟』で、居られたのにっ....)
 僕は今日まで、何回も人間と暮しては別れて来た。
 長く生きて来た分だけ、人間より多くの別れを見て来たつもりだった。
 でも、こんなに別れが辛いなんて、初めて知ったのだ。
 気持ちを区切る様に、足を一歩動かす事の苦しさを初めて理解したのだ。
 針山を歩く心地で、くるりと踵を返すと、僕はチキコとサカっちゃんに背を向けた。
 振り返れないのだと思うと、....信じられない位に胸が絞られて痛かった。
 幻惑をかけたのにチキコはまだ泣いていて....その泣き声が、耳に届いて僕は小さく頭を振らずにいられなかった。
 名前を呼ばれた気がして、どうしたら良いか分からなくなりそうだった。
 チキコが引き留めに来たらどうしよう。
 走って来て、バカって一発叩かれたらどうしよう。
 ずっと一緒に暮すんだって言われたらどうしよう。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう........)
 僕は、有り得ない事を想像して、自分の足が一歩、二歩とスピードを上げていくのを感じた。
 そして、喉の奥から、くうっと空気の塊の様な吐息が零れた途端。
 溢れて来た涙を、止められなかった。


 三年間の日々が、静かな薄暗がりの睡眠室で瞼を閉じる僕からどんどん遠ざかって行った。
 大人の吸血鬼達は、泣いて協会に戻って来た僕を見て、驚いた顔をしながら『別れとは、本来そんなものだったね』と何処か懐かし気に言った。
 僕は、なんで子供のまま吸血鬼になってしまったんだろう。
 覚えてもいない。
 けれど....吸血鬼でありながら『仕方がない』という言葉と一緒に、飲み込むしかない別れを知れた事は幸せだったんだろうか....。
 頬にあたる風が、涙のせいで冷たくて。
 冷たくて....また、悲しかったなんて。
 そんな記憶でも、幸せの一部なんだろうか。
 次に起きても....もう二度とチキコに会えないのだけれど。
 例え、どんなにチンチキでも、チキコは人間だから死んでしまうのだ。
 サカっちゃんなんて、きっとチキコより長生きしないで死んでしまうだろう。
 だから、この別れを覚えておけるのは....僕だけ、だった....。


   * * *


「ちょっと、あんた。私の弟なんだから、私の孫に会っても負けたりしないでよね!」

 ずずずっ、とお茶を啜りながらチキコはそう言うと、炬燵の中から僕の足を小突き蹴った。
 サカっちゃんは、炬燵がグラッと揺れた事に一瞬ビクッとすると、困った様に笑って、僕に『これ、美味しいから』とお煎餅をすすめた。
 僕は二人に囲まれながら、目覚めたばかりの回らない頭で、受け取ったお煎餅を一口齧っていた。

 そう。
 あれから四十年も経っているのに、二人は僕を忘れて居なかったのだ....。
 僕は眠りから目を覚ますと、あの日別れたチキコ達を思って、遠目からでも良いから生きてるなら今のチキコ達が見たくて、探しに行こうと協会を出た。
 そして、協会施設を出て十メートルも行かない所で、ぐいっといきなり派手な服装のおばさんに腕を掴まれたのだ。
『ちょっと!何処行く気よ!こっちは、散々待ったっつーの!』
『え........。誰....』
『はぁ!?あんた、弟の癖に見て分からないの!?私なんて、一発で分かったわよ!』
『........もしかして、チキコ?』
『そうよ!あんたの姉は、私だけでしょうがっ!!』
『....だって....チキコ....おばさんにっ....』 
 なってる。と言おうとした僕は、気が付けば脳天にゴチンと鉄拳を喰らっていた。
『ったぁ....』
『四十年待ってあげてた人間に向かって『おばさん』なんて、あんた失礼なのよ!』
『ごめん。でも....どうして此処に?』
『はぁ!?あの時、こっそりあんたの跡をつけてたからに決まってんじゃん!』
『え....。つけてたって........』
『尾行よ!尾行!』
『幻惑は?....』
『は?....そんなものあんな怒ってる時に効くわけないでしょ!』
『信じられない....姉さん。....何考えてんの?何年待つ気だったわけ?』
『分かんないから、四十年待ってたんじゃない!!』
『............』
 やっぱりチキコは、何年経ってもバカだったらしい....。
 僕は改めて、チキコの姿を見た。
 赤茶色の髪に、ばっちりと濃い目元の化粧、黒のロングスカートはキラキラのスパンコール付き。セーターには何故か薔薇の刺繍....。チンチキ趣味も相変わらずみたいだった。


 この四十年。
 チキコは二十五歳でサカっちゃんと結婚すると、一男二女の子供を授かったらしい。五年前には孫も生まれて、『施設』の真ん前に一軒家を建てて、僕が出て来るのを手ぐすね引いて待っていたと言うのだ。
「この家もね、強引にチキコちゃんが吸血鬼協会を脅しに脅して、此処に建てたんだよ〜....」
 医者になっておじさんの病院の跡を継いだサカっちゃんを使って、チキコは『変な味がしない鉄分タブレット』を研究開発させたのだと言う。
 それは今や、吸血鬼の間では御用達愛用の品らしかった。
 そして、その功績をチラつかせて施設の敷地内(本当に、施設建物の真ん前に家がある....)に家を建設して、僕の目覚めるのを待っていたと言うのだ....。
「姉さん....」
「何?何か、文句あるわけ?あんたが、子供だから悪いのよ。待たれて当然でしょ?」
「そうなんだ....」
 なんだか凄い理論だと思うけど、僕はバリバリとお煎餅を齧るチキコの姿を見て反論を諦めた。
 チキコには、四十年という経験まで身についていてとてもじゃないけど勝てそうになかったし、どんな形にしろチキコやサカっちゃんが幸せそうだし、僕もやっぱり幸せだったから。
 だから僕は、勧められたお煎餅を齧りながら素直に炬燵におさまっている事にした。
 チキコは食べ終わった指をチロッと舐めた後、二枚目に手を出しながら
「この煎餅、本当に美味しいわね」
 と言った。
 僕はそんなチキコの態度を本当におばさんくさいなぁっと思って見てたけれど、嫌いじゃないなと内心笑って頷いた。
「そうだね。本当に美味しいよ」
「何よ、あんた。昔より、素直じゃない?」
 チキコは僕が素直に同意した事に一瞬驚いて見せた後、サカっちゃんに向かって手だけで『お茶』と請求しながらパリっと満面の笑みで二枚目のお煎餅を齧ったのだった。

  おわり
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by yoseatumejin | 2006-12-08 10:24 | 文/白挿絵付(全1種)

白ちゃん挿絵付「I can't mint the Iron」(04/全5回)

 けれど、チキコは僕とタブレットとを交互に見やると、何も言おうとしない僕に業を煮やした様で悔し気に容器を投げ付けた。
『まただんまり!?あんた、いっつもそうだよね!都合が悪いと、黙ってさ!姉とくらい、ちゃんと喧嘩しろバカ!』
『....嫌だよ。姉さんと同レベルになるなんて無理』
 悪いけど、吸血鬼は人間みたいにテンション高く生きられないよ。ましてや、チキコみたいには絶対無理なんだって....。
『っとに!ムカツク!!!』
『だったら、構わなきゃ良いんだよ』
『!!....ふ、ふ、不良っ!!』
『姉さん....』
 流石の僕も、その台詞には驚きと共に『え〜!?』と内心でツッコミを入れずにおけなかった。明らかに、外見だけだと、そっちの方が不良だよ。
 そんな校則違反しかしてない格好で、どうして僕を不良扱い出来るのか。本当にチキコの頭の中が分からない。でも、チキコにしてみたらこんな怪しげなタブレットを持っている僕は、自分以上に『不良』らしかった。
『いつから....クスリやってたの』
『........クスリって....。それを飲んでるのは一年前からだよ』
『一年!!....あんた、バカよ。たった一回だって危険なのに....っ....もう中毒じゃない!』
『だから、それはドラッグじゃないし....』
『嘘つくな!....これ飲んだら、そりゃあもう、天井がグルグルで足下フワフワで頭ガンガンで....っ....!こんな身体に悪いものがただの薬なわけないわ!』
『....それは....姉さんが人間だからってだけで....』
『!?....は?あんただって、人間でしょ!』
『............。....違うよ』
 僕は、一拍沈黙したけれど、結局あっさりと首を横に振っていた。
 そして、
『僕は人間じゃない。吸血鬼なんだ』
 と続けざまに告白していた。

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 それは、どうせこれで終わりなんだしという気持ちと、最後に『幻惑』をかけ直せばいいやという考えが、僕の中に前々からあったからに他ならなかった。
 チキコは、僕の台詞を聞くと、一瞬ポカンと口を開けた後、
『はぁ?........何言ってんの、あんた?........あ。分かった。コレ!サカキん家からパクって来たんでしょ!で、私を騙してるんだ。何、もしかしてサカキもグルで何処かに隠れてるんじゃないでしょうねッ!?』
 と、僕の部屋のクローゼットを乱暴に開け放ったりした。
 つまりは、どうやら、僕の発言はチキコの中で却下されたらしかった。
 僕は勝手なチキコの妄想に内心でククッと笑わずにはいられなかったけれど、真面目に色々と話すより便利そうな妄想だったから、『実はそう。おじさんから、借りたんだ』とチキコの話に乗ってみる事にして、頷いた。
 けれど、流石にチキコも自分の発言に素直に頷いた僕には不信感があったみたいで、机の上に置いてあった定規を投げ付けると、
『嘘つき!あの鬼瓦みたいなオヤジがこんな物騒なクスリの持ち出しを許すかー!』
 と確かに尤もな事を言った。
 そこで僕は結局、真面目に答える事にした。
『....だから、僕は吸血鬼なんだよ。最近、力を使い過ぎてるからタブレットを飲んでるだけなんだ』
『力?力って何よ』
『幻惑能力』
『は?ゲンワクって何?』
 チキコは、『幻惑能力』だと言った僕に、素面でそう返すと首を傾げた。
 どうやら....チキコには、『幻惑』という言葉自体の意味が分からなかったらしかった。
 僕は、真顔で疑問符を飛ばして聞き返したチキコのボンボン髪に、ちょっと本気でガクッとなった。
『........えっと。幻って言うか....騙しって言うか....』
『幻って!....あんた、やっぱり中毒じゃない!』
『そういう意味じゃ........ないってば』
 どうしても、チキコの中ではこの薬は薬物にしか結びつかない様で話が進まない。まぁ....普通に考えれば、それも当然だけれど。
 そして僕は、チキコにどうも上手に自分が話を出来ていない事を自覚していた。
 もっとちゃんと説明すれば、チキコだって分かるはずだ。
 そう分かっている癖に、僕はそれが出来なくて、こんなバカげた遣り取りを続けるしかなかった。
『............』
『............』
 微妙な長さの沈黙が続き出して、チキコは何も言わない僕をじっと見つめると俯いた。そして、薄いピンクのマニキュアが塗られた指先を弄び始めた。これは、チキコがチキコなりに何かを真剣に考えている時の癖だった。
『............』
『............』
『ねぇ....このクスリ。あんた、本当に飲まなきゃダメなの?』
 親指のマニキュアを無理矢理ツメで剥がそうとしながら、チキコは怒りのニュアンスを含んだ口振りでそう言った。
 僕は、チキコのその声に....いつもと同じで....言い様のない嬉しさと寂寞を感じずにはいられなかった。
 それは、血の繋がりどころか、人間と吸血鬼という違いもあるのに、チキコが....本当に僕を『実の弟』として扱ってくれているのをいつも実感して来た声音だったから....。
 あの日、出会った事をチキコは覚えてはいない。ずっと、僕と姉弟だって思ってる。
 だから、チキコが僕を『実の弟』扱いする事に違和感なんてないと思われるかもしれない....。けれど、やっぱり違うのだ。
 例え『幻惑』をかけていても、普通はこんな風には接して貰えない....。
 どんなに家族の一員のフリをしていても、それは空気がそこに存在している様にしか....僕は紛れ込む事は出来ないのだ。
 それなのに、チキコは僕の存在をこんなにもハッキリと自分の中で持ってくれている。
(だからこそ、タブレットが手放せなかったんだけど....)
 僕はいつの間にか『ずっと、チキコの弟として生きていたい』と願っている自分の馬鹿さ加減に自嘲を漏らさずにはいられなかった。
 チキコが僕を大事に思ってくれているから、チキコを悲しませたくなかった。
 ずっと、チキコの側で暮せたらと思わずにはいられなかった。
 それが、自分の能力の限界以上の高望みだって分かっていたけれど。

『....飲まなかったら、僕はもう姉さんと一緒に暮せない』
『でも....。もう、飲んだとしても....僕は姉さんと一緒に暮せないんだ』
『お別れなんだよ、姉さん....』

 タブレットを飲むのを止めたら、僕は多分長く眠る事を余儀なくされるだろう。
 目立たない空気みたいじゃない今の僕は、吸血鬼である身体には堪えるから....。
 チキコは僕の返事を聞くと、信じられないものを見た時の様に両目を見開いた。そして、僕をドンっと押し飛ばすと、
『あんたなんか、大ッ嫌いよ!!』
 と怒鳴って部屋を出て行ったのだった。


   * * *


 結局。昨日はそれ以上チキコと話す事はなかった。
 何故なら、その後チキコは自分の部屋に立て篭ったのち、こっそり部屋の窓から飛び降りて隣に逃げ出すと、サカっちゃん家にて堂々と夕食をご馳走になって、お風呂にも入り、朝、父さんと母さんが出かけた頃を見計らって戻って来たのだから。
 お陰で僕は、朝から眼前でチキコの『手鏡素手割りショー』を見せられるはめになって、勿論幻惑をかけるチャンスも貰えなかった。

 昨日一晩で、チキコが自分の脳みそを駆使して出した答えは『クスリより、人間の血を飲む方が身体に良いはずだ!』だったらしい。
 僕が朝食を食べている所にいきなり帰って来たチキコは、僕の顔を見るなり
『見てなさいよ!』
 と怒鳴ると、自分の学校用バッグの中からキラキラのポーチを取り出し、うさぎの形をした手鏡をテーブルに置くと、真上から右手正拳突きで割って見せたのだった。

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『姉さん!?』
『さぁ、飲みなさいよね!せっかく、私が血を分けてあげてるんだからね!』
 ポタポタと割れた鏡やテーブルの上に赤い血が落ちて、チキコはそれを何故か満足気に見やると僕の顔に拳をぐいっと近づけた。
『い、嫌だよ』
 僕は鼻面までやって来たチキコの拳を避けるように、椅子から腰を浮かせて二三歩逃げ出した。
 本当に、この時程この世界に蔓延っている『吸血鬼の常識』に辟易した瞬間はなかった。
 でも、チキコにとっては僕のこんな態度は吸血鬼にあるまじきものらしく、
『飲みなさいってば!もったいないじゃんか!』
 と怒り出した。
『頼んでないよ!』
『なんですって!生意気言わずに飲めーーっ!!』

 そして、僕は朝からぶん殴られたのだ........。

(やっぱりチキコって、意味分かんないよ....)
 静かになったリビングで、僕は殴られた頬を擦ってみた。
 長く生きているけど、こんな風に誰かに殴られた事も初めてだ。
「と....言うか、殴られる日が来るなんて考えた事もなかった。痛い........」
 吸血鬼でも、痛いものは痛いんだな。と納得する。
 きっと今頃、チキコも『イタイ!イタイ!』と叫んでは、サカっちゃんのおじさんから怒鳴られつつ治療されているだろう。
(もっと、考えてから行動すれば良いのに)
 まぁ、それが出来たらチキコじゃないだろうけれど。
 出来れば僕は、別れが来るにしても、もっと穏やかに別れたかった。否、出来るなら他の家族の元から消える時みたいに、フッと気付けば居ない様な存在で居なくなりたかった。
 それなのに、チンチキチキコのお陰で僕の希望は狂ってしまったのだ。
「しょうがない....それが姉さんだし」
 僕は立ち上がると、荷物が詰まったランドセルを背負って、チキコの投げ置いて行ったバッグを掴むと玄関に鍵をして、隣に向かった。

  つづく
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by yoseatumejin | 2006-12-07 13:18 | 文/白挿絵付(全1種)

白ちゃん挿絵付「I can't mint the Iron」(03/全5回)

(やっぱりならなきゃ良かった....)
 世間の『吸血鬼』のイメージは色々あると思うけど、現在日本で暮してる吸血鬼は人間から血を吸って暮してなんかいない。
 確かに、昔は吸血鬼も生きて行くのは大変で、血を求めて人間を襲った事があると言う話も、聞いた事があった。
 でも、何故吸血鬼が血を欲するかと言えば、吸血鬼の身体が常に鉄分不足を引き起こしているからに他ならないのだ。
 現代みたいに食生活も向上している時代に、わざわざ吸血で鉄分を補給するなんて馬鹿げてる行為に出る吸血鬼はいなかった。
 そんなに鉄分が不足しているなら、病院で『貧血です』と言えば本当に鉄分が不足している身体の僕等は、幾らでもサプリメントが貰えるだろう。
 また、病院に行かなくても長く生きて居る吸血鬼達だから、ちゃんと『協会』もあって、きちんと会員登録しておけば専用のサプリメントも貰えるし、長期睡眠のための地下睡眠室だって借りれるのだ。
 そんな訳だから、僕は確かに何処の子でもなかったけれど、生活に困っているわけじゃなかったのである。ただ、いつもいつも『協会』施設の中でひっそりと暮しているのも飽きてしまうので、時々人間生活に混じってみる事があるだけだった。
 チキコの所に来る三十年位前も、僕は他の家の子として暫くの間暮していた。
 もちろん、いきなり人様の家に押し入っても(チキコの場合は連れ込まれたんだけど....)その家の子供になったりはできないから、そこは生きて行くために持っている吸血鬼のささやかな能力『幻惑』を使って紛れ込む。
(でも、やっぱりならなきゃ良かったなぁ....)
 広げた新聞紙に破片を集めてごみ箱に捨てる。手と顔を洗うと、洗面台にザーッと赤い線が流れていった。それがチキコの血なんだと思うと、僕は妙な寂寥を感じた。
 この三年間で、チキコは小学生から中学生になった。それはなんだか良く分からないけれど、スカート丈が年々短くなって、髪の色が年々明るくなって、一時期は大変危険な化粧をしている時もあって、変わった様で変わらない性格でもって、弟になった僕をチキコなりに姉の愛情で愛してくれていた三年間だった。
 もちろん、僕の誕生日にケーキを食べ、泣きおどして自分もプレゼントを貰い。中学生になっても、こどもの日のケーキを忘れなかった。
 それ以外にも、僕をダシにお小遣いアップを要求したり、僕に夏休みの課題図書感想文や自由研究をやらせておいて、賞を獲ったら自分がお小遣いを貰うという卑怯な手も使っていた。


「ちょっと!!姉が泣いて飛び出して行ったんだから、少しは追いかけて来なさいよね!!」
 バン!と玄関の扉を乱暴に開いて、戻って来たチキコは、顔を真っ赤にして怒っていた。
 けれど、勿論、泣いてなんかいなかった。
「....泣いてないし。それに、サカっちゃんが居るんでしょ?」
「居るわよ!何よ!可愛くないわねっ!!」
 僕の指摘に、悔しそうにそう怒鳴ると、チキコは八つ当たりしたくなったらしく、ガッと背後に向かって足を蹴り込んでいた。
 見事にいい感じの鈍い音がして、アイタ!という生声がする。
 そして、おずおずとチキコの後ろから顔を覗かせたのは、案の定、隣に住んでいるチキコの幼なじみ、榊(サカキ)ことサカっちゃんだった。
 僕は、サカっちゃんが、チキコと幼なじみなんて言う不運な運命の巡り合わせにあっている原因は、サカっちゃんの家が代々『お医者さん』だからだろうと思っていたりした。
 そんなサカっちゃんは、僕の顔を見ると『やぁ』と片手を上げて、あからさまに気弱だと分かる笑顔をこぼした。
 チンチキなチキコの服装とは違って、縦にも横にもヒョロい身体を詰め襟の学生服に包んだサカっちゃんは、細い黒縁眼鏡に黒髪という普通な色彩で彩られていた。でも、チキコの隣に居るとサカっちゃんの普通の黒さがやけに黒々しく見えてしまって、何となくチンチキに映るから不思議である。
「やー。ごめんね。ボクがチキコちゃんを診察室に連れて行こうと思ったんだけど、君が追いかけて来ないから嫌だとか言うんだ....」
「そうですか....。姉さん、サカっちゃんに迷惑かけずに、さっさとおじさんの所に行こうよ。あんまり我儘言ってたら、救急車呼ぶよ?」
「嫌よ!なんで、隣ん家まで救急車に乗らなきゃいけないのよっ!!」
「分かってるんなら、行きなよ」
「ホラ、ね?さぁ、ボクの家に行こうって。早くしないと、硝子が入ってたら大変なんだから....」
 サカっちゃんは柔和というより弱気な笑顔をチキコに向けると、僕に口癖になってる『ごめんね』をまた言った。チキコは、そんなサカっちゃんの脇腹に今度は肘鉄を喰らわすと、僕を睨んで
「あんた。このまま一人で出て行ったら、捜索願い出すわよッ!ちゃんと片付けて、必ずこいつん家に見舞いに来なさい!!分かったわねッ!!」
 と何故か威張り散らした態度で以てそう言って、やっと病院に行く気になった様だった。
「............ホント、朝から五月蝿すぎ」
 元々、吸血鬼の僕には平常時でもチキコのテンションは高いのだ。
 それが今日は更にヒートアップしていた訳で、僕は閉まった玄関を眺めて『はぁ』と溜息していた。
(朝から疲れた....)
 片付け終わったダイニングテーブルに頬を乗せると、僕はじっと目を閉じた。
 どうせもう学校に行くことも出来ないのだから、急ぐ必要もない。
 それに、もう僕の身体は眠たくてしょうがなかった........。


   * * *


『ちょっと、コレ。何なの!?ラムネなんて嘘じゃない!!』

 昨日の夕方。
 僕が学校から帰ると、僕の部屋でチキコが激昂していた。
 その手には『おいしいラムネ』と書かれた、青緑色した半透明のラムネ菓子容器が握られていた。

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 僕はそれを見た刹那、しょうがないな。という気持ちから生まれた嘆息を一つ溢して
『そうだね』
 と素直に頷いていた。
『何が『そうだね』よ!あんた、私に内緒で変なクスリに手を出してたなんて....っ....小学生の癖に最低だわ!』
『............』
『ちょっと、何か言いなさいよ!』
『........。姉さん、弟が隠し持っているものまで口にするなんて、どうかと思うよ』
『何よ....!弟のものは私のもので何が悪いのよっ!!』
『悪いよ』
『........このドラッグ、何処で手に入れたのよ』
『そんな物騒なものじゃないよ。まぁ....姉さんには必要ないけど....』
 白い錠剤は、確かにラムネなんかじゃなかった。
 けれど勿論、ドラッグでもなかった。
 ただ鉄分が多く含まれている、吸血鬼用のタブレットだった。
 とは言え、人間が一度に摂取するには鉄分が多量過ぎて逆に気持ち悪くなるモノだったから、一応人間のチキコが食べるには不都合なモノだと言えた。
 けれど....。
 そんなタブレットが、今の僕には手放せなくなっているものに違いなかったのだ。
 元々、僕の様に小さな子供の吸血鬼には、三年もの間絶え間なく『幻惑』をかけ続ける事には無理があった。
 まして、チキコは、もう半分大人だし。お母さんとお父さんが、僕とチキコとの差に覚える違和感の強さは年々増すばかりだった....。
 この家で暮していたら、力の使い過ぎになる事なんて、本当は出会った時から分かりきっていたのだ。
 僕が世話になっている『協会』の大人達も、そろそろ戻れと勧告して来て居たし....。
 だから僕は、目の前でチキコがタブレットを持って怒っていても、別段驚きも狼狽もなかったのだった。

  つづく
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by yoseatumejin | 2006-12-06 09:47 | 文/白挿絵付(全1種)

白ちゃん挿絵付「I can't mint the Iron」(02/全5回)

題 「I can't mint the Iron」


 姉の知己子(チキコ)に吸血鬼だって知られた僕は、朝からぶん殴られた。


「....ったぁ....」
「何よ!何で血を飲まないのよ!!」
 頬を擦ったら、指先にねっとりと赤い血が付いて来る。
 これはもちろん、僕の血じゃないし。僕がチキコから、何らかの方法で奪った血でもない。
 というよりも、僕は吸血鬼だけど血なんて飲んだ事はないのだ。

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「....何で、って言われても。僕、元々血なんか飲んだ事ないよ....」
「じゃあ、あんた。何処が吸血鬼なのよ!?」
 鮮血で染まった拳を震わせて、チキコがそんな激昂をする。
 妙にブカブカな紺のジャケットは、やっぱり似合ってないなと僕は思った。
 中のシャツは白いけど開襟し過ぎててナイ胸が谷間を覗かせているし、制服とは思えない赤地に茶色のチェックスカートは超ミニだし、茶色い髪には、お気に入りのピンクの毛糸のボンボンがちょこんと乗っかっているし....。
 こんな外見してる癖に、中身が体育会系なんて反則だよ。
 しかも、朝っぱらから手鏡を正拳突きで割って見せた上に、そのせいで溢れた血を僕に飲めと言うのだから、始末に終えない。

「あのさ、姉さん。........とにかく隣に行きなよ」
「何よ!話、逸らす気!?」
「........逸らすとか何とか言う前に、怪我してるんだよ姉さんは」
「これ位の怪我、涙も出ないわ!」
「............」
 僕は前々からチキコはバカだバカだと思っていたけれど、やっぱりバカだなと納得した。
 でも、納得したのは僕で、チキコ本人じゃない。チキコは僕の哀れみが入った目線を見つけると、
「吸血鬼の癖に血を飲まないなんて生意気なのよッ!!」
 と叫んで家を飛び出したのだった。

(お母さん達、先に出勤してて良かった)

 ダイニングテーブルの上は、割れた鏡と一緒に朝ご飯だったハムやスクランブルエッグやロールパンの食べかけが散乱していた。
(片付け、面倒....)
 全く以て、チキコは単純なつくりをしていて困る。
 いや、チキコがどうのこうのと言う前に....この家に素直に潜り込んだ僕が間違いだったのだろう。とは言え、僕だって当初から好きで潜り込んだって訳じゃなかったんだけど....。


 あれは三年前。まだチキコが小学六年だった時。
『ねぇ、あんた。ドコの子?』
 公園で一人ブランコに乗ってぼんやりと過ごしていた僕に、学校帰りらしいチキコがそう声を掛けて来たのだ。
 その当時の僕は、前に一緒に暮していた家族と別れて大分経っていた事もあり、少し一人の生活に飽きていたのだろう。あのチキコが最初、普通に見えた。
『何処の子でもないけど』
『何よ、じゃあ一人暮らししてんの!?』
『それも微妙に違うかな....』
 確かに僕は一人で生きていたけれど、チキコが言う様な意味合いで暮してはいなかったのでそう答えた。
『何だか可哀相ね、あんた』
 背負っていた赤いランドセルを揺らして、ブランコに座っている僕を覗き込んで来たチキコの顔は、何故か台詞に似合わず満面の笑みだった。
『............』
『ねぇ。私、良い事思いついたわ!』
『............何?』
 今の僕なら、このチキコの『良い事』が実は禄でもない事だと知っているけれど、あの時の僕にそんな事は分かろうはずもなかった。
『あんた、家の子になるのよ。私、弟欲しかったんだ!』
『............弟....』
『そう。ね?良い考えでしょ?あんただって、お姉ちゃん欲しいでしょ?ホラ、お姉ちゃんってね、優しいんだよ。いっつも一緒に遊んでくれて、本とかも読んであげたり....って、あんたそこまで小さくないわね。小三くらい?じゃあ、漫画貸してあげたりー、おもちゃだって二人いればパパとママから今より沢山貰えるじゃん。私、今欲しいおもちゃが一杯あるんだー。あんたの誕生日が増えて、ケーキも沢山食べれるし。あ!それにあんた男の子だから、こどもの日もケーキ食べれるじゃん!だってね、こどもの日なのにママったら、こどもの日は男の子の日だから女の子にはケーキは必要ないとか言うんだよ!?オカシイよ。あっ!まだあるー!そうじゃん、ねぇ、あんたの誕生日に、あんただけプレゼント貰ったりしたら不公平だよね?きっとそう言って泣いたらさ、あんたの誕生日に私もプレゼントもらえるって思わない!?あんたも、私の誕生日に泣きなよ。そしたら公平だから良いよね?』
『へぇ....』
 どんどん自分に都合の良い展開ばかり想像していくチキコに、もちろん僕は引いた。こいつはヤバイ。と僕の脳内はきちんと警鐘を鳴らしていた。
 僕はキィとブランコを揺すると、後ろにさがって前に向かい出した所でポンとブランコから飛び降りた。逃げるつもりだったのだ。
 が、その時。チキコが野生動物の様な俊敏さでブランコから降りた僕の腕をむんずと掴んでいたのだった。
(!?)
『ちょっと、あんたドコに行く気?』
『........帰る』
『ドコに?』
『........家にだよ』
『じゃあ、私の弟にならないって言うの!?』
『うん。ならない』
 という台詞を僕が言うよりも早く、僕はチキコの余った方の腕で見事に首を締め上げられホールドされていた。
『っ!!』
『弟になるって言わないと、離さないから』
『っっ!!』
『ぜぇーったい!離しません!』
『っ!!っ!!〜〜っ!!!』
『暴れたら殺すよ!』
『ッ!!!!』
 ....................。
 ....................。
 今思い出しても、僕の長い人生において、この時ほどあっさり殺されるかもしれないと切迫した事はなかった。
 いや、このままじゃチキコの無邪気な殺意で本当に殺されるかと思った。
 吸血鬼だって、息が出来ない程に首を締められたらヤバい。顔と身体に似合わず、小さい頃から空手をやっていたとかいう理由からなのか、チキコの技量は恐ろしかった....。

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 結局、僕はチキコに負けた気持ちになった事も手伝って、素直にチキコの弟になったのだった。

  つづく
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by yoseatumejin | 2006-12-05 11:25 | 文/白挿絵付(全1種)

白ちゃん挿絵付「I can't mint the Iron」(01/全5回)前書き

前書き)数ヶ月前の事。白ちゃんとの会話。

白ちゃん:「じり子ちゃんは、あの、変な詩だかなんだか分からないのには変な絵を描いてるのに、どうして文には挿絵とか、描かないのですか?」
じり子:「そんなの。面倒くさいからだよ」
白ちゃん:「えぇ!?」
じり子:「面倒じゃん。第一、文のイメージなんて湧かないねぇ〜」
白ちゃん:「でも、文は書いてるんだからっ....?」
じり子:「それは、それ。これは、これだよ!まして、私にさ、挿絵なんて描けるわけないじゃん。いっつも描いてる、あの変なのが、限界デス!あれ以上を求められても、無理。描けない。白ちゃんじゃあるまいし、絵なんて描けるわけがない」
白ちゃん:「はぁ.......。えぇ.....もう。そうなんですか?」
じり子:「うん。そう!」
白ちゃん:「......そんなハッキリ....。.....じゃあ、私で良かったら挿絵描きましょうか?」
じり子:「うっそvマジで!?」
白ちゃん:「えぇ。じり子ちゃんが良いなら」
じり子:「良いよ〜。だって、私には描けるわけがないしね!」
白ちゃん:「はぁ....。じゃあ、描きますね」
じり子:「ありがとう、白ちゃん〜!!わーいv」

という話が起ったのでした。笑。
そんなわけで、今回。私の拙い文に、白ちゃんが挿絵を入れてくれましたーー!
うぉー!ありがとう、白ちゃん!

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ではでは。これが、題「I can't mint the Iron」のキャラクター達です〜。短い話なんで、キャラは少ないですー。(注:主人公の「僕」と背景色は、挿絵から私が流用して付け加えました。)
白ちゃんが、私に分かる様にと説明につけてくれた絵なのですが、私だけ見てるのは勿体なかったので、前書きにアップさせて頂きましたよ。えへv
惜しむらくは、右端の学ラン男子「サカっちゃん」のイラストはこれだけなのでした。不遇です、彼。笑!挿絵には、登場しません。笑!

私の文は基本どうでも良いので(笑!)、ぜひ白ちゃんの絵を楽しんで頂けたら嬉しいです〜vではではv
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by yoseatumejin | 2006-12-01 11:34 | 文/白挿絵付(全1種)