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そらにキラリ。

題「そらにキラリ。」


「見ちゃったのよ、空!ほら、流星群。お父さん早出だったから、外暗いし、ちょっと出て、あぁーそうだったわぁって、空みたらね。一瞬で、シューって、あっという間に消えちゃったのよ。もう、感動して、初めて見たから流れ星!願い事とか、もう全然考えつかないわね。それよりも、感動しちゃって!」

私は、ウキウキと話す母を、お味噌汁をすすりながら、じっと見た。
なんだろう。こういう人を、幸せな人って言うんだろうなって思う。
だって、流れ星だもの。
私なんかより、断然乙女だ。

「今日まで見れるらしいから、あんたも見てみなさいよ!」
「ふーん.....」

ってゆうか、娘に夜更かしを勧めるなんて、駄目な母ね。と、曖昧に頷きながら考えた。
夜中なんて、実は起き慣れてるんだけど。でも、やっぱりね、いざ勧められちゃうと、ちょっと引いちゃうよね。
多分、流星群のために眠らずに居るっていうのが、私の性格というかキャラクターに合わないんだわ、きっと。
これが、友達とメールしてて。とか。
ネットでINしたゲームがやめられなくて。とか。
下らない理由で、人生の暗部を眺めちゃった。とか。
健全に、部活の筋肉痛。とか。
もっと、自分から離れてない感じの事が理由だったら、私は延々と真夜中を満喫したんだと思うけれど。

流星群って。

何だか、綺麗過ぎ。(まぁ、実際は、宇宙の塵なんだろうけど?)
これを見逃すと、七十年後って、多分死にかけてるし.....その頃には、もう今日の事なんて忘れてると思うし、何だかんだ言ったって、私が見ようと、見まいと、私の頭上では勝手に星達が、ひゅんひゅん流星ってるんでしょうとか、なんとかかんとか考えると、やっぱりどうだって良い事みたいに思える。

だから。
学校で、やっぱり一つのグループの子達が、流星群がどうとかこうとか。
見れたんだとか、きっとあれだったとか。見ようと思って、寝ちゃったとかね。
楽しそうに話しているというのは、まぁ、私的には「ここもか」って感じだ。
世の中には、乙女が多いんだって実感。
テレビでも、ニュースで言うんだし。世界の皆さんの大半は、乙女なんだろうなって思う。だって、学術的に観測してた人って、流星群を見ようって思った人口の多分半数もないよね?
きっと、世界八割が乙女だ。
そう考えると、私が生きてる世界って、何だか自分が思っているよりも甘ったるいのかもしれない。

校舎の窓の外から見える電柱だって、本当は砂糖が固まって出来てたりして。
(そう考えると、面白っ)
このガラス窓さえ、砂糖で出来てて、あのチョークも、黒板も、私が座っている椅子と机も、みんなみんな砂糖仕上げだ。
人は、砂糖なくして暮らしていけないのね。
(大変だ。大変)

って、私は自分の馬鹿げた思考を中断した。いや、完全停止させた。
流星群と、砂糖って。
繋げた私の思考の、アホだ。

先生が来て、今日の三時限目と四時限目とが調理実習だって伝えた。
あぁ、そうだ。
かったるいな。クッキーなんて、家で作っておけば?(好きなやつがね)と、思う。
前回の、ごはんと味噌汁と玉子焼きとほうれん草のおひたしよりマシ?
どうだかなぁ。
やっぱり、かったるさは、断然クッキーだよね。
カップケーキの時だって、綺麗に出来たものは可愛い女の子達のラッピング&男子プレゼントへ変貌した訳で。
今回も、そういう結果だよね。
家で作って持ってこいよ。とか、思っちゃダメなんだよね。
たまたま。という要素が大事だからね。
あぁ、本当に世界は乙女に出来てるんだ。


だからね。
部活が終わって、サクサクと帰る事に集中して歩いていた私は、驚いたわけだよね。
お腹だって、空いてるし。
空は、暗いしね。
流星群は、夜中だしね。関係ないしね。
全然、意識はしてなかったわけだよね。

「加藤!」
って、呼ばれて。
それが、自分の苗字でしたとかね。思わないわけだ。
呼ばれたって意識が、なかった。

でも、二度目に「加藤!」って言われて、とりあえず足が先に(あ、これ自分じゃね?)って反応した。
「......?」
「お、お前さ」
「何?」
振り返って、呼び止めた相手が、クラスメイトの男子だったと判明しても、親しくはないやつでは無愛想にもなる。
まぁ、名前は知ってる。眼鏡の、山口だ。
「流星群、見たか?」
「.............」

私が、『こいつは、馬鹿か?』と、口にしたかった事は、私を知る者なら万人が理解してくれただろう。
山口。
お前の目は、本当に悪いな。

「.........流星群な、今、見れるんだって。星がな、すごく一杯流れるから、見れるんだって」
「............」
「加藤?」
「山口君、それがどうした訳?」
「あ、加藤もう、流星群知ってる!?」

知らないやつは、いねぇよ。
と、言いたいが、きっと知らない人も五万と居るだろうと思うし、ここは再度沈黙だ。

「..........」

「加藤は…そういうの、興味ないか」
「ない」

あるわけが、ない。
これだけは、言ってやる。親切だ。

山口は、傍目に分かりやすく落胆した。
普段親しくない人間に話しかけると、己の考えていたキャラクターと違う時があるのは認めよう。私は、傍目にも分かりやすいタイプだと思っていたけれど、山口的には違ったんだね。残念。実は、こんなだ。

でも、山口は何が目的でこの空腹を抱えた少女に(と、とりあえず少女と自分を言っておく。年齢的に)こんな実のない会話を仕掛けてきたのだろうか?
山口に伝わった私に関する情報に、星好きとでもあったんだろうか?だとしたら、駄目な情報源だな。
それとも、誰か別の加藤なんちゃらさんと間違えたか?山口は、目が悪そうだからね。
何にしろ、全く私とは縁がない状況が続いているのが、今だ。

「山口君」
「............」
「じゃあ、」
「............」
「ね」
「............」

何だよ。
今度は、お前が沈黙か?
一応、去り際という意味で挙げた手が空しい位置になってるじゃないか。
山口。
こいつ、なんかイラっと来るな。

と、私が思った瞬間。
山口は、何やらをいきなり私の半端に上がった手へ向かって投げていた。

「うぁ!」

思わず、変な声と共に慌てて、それを掴んだ。
ソフトボール部を、なめんなよ。と、言いたい気分だ。
が、掴んだソレが、己の手の中で、ボロというかグズっというか.......とりあえず、何かがどうかなってしまった事に、気を取られてしまったゆえに、何も言えなかった。

山口は、私がそれをぐしゃりと握っているのを確認すると、
「それ、やる!」
と言って、ダッシュで去っていた。

(最悪だ、山口)

お前は、何なんだ。何が目的だったんだ?
全く、分からないぞ。
明日から、私がお前を見る目がどうなるか、もっと良く考えてから行動した方が良い。
人間には、それが大切だ。

(........あいつは、バカだ)


私は、山口(バカ)が投げてよこしたものを、見た。
銀紙に包まった。
調理実習の、クッキー。(ボロボロ)
「.......女子か?」
と、思わず呟いてしまった。
これを、何故私に.....。恋か?恋なのか?山口?
(.........バカだ)

バカだ。山口。バカだ。

あいつ、バカだ。山口。

「はっ...あはははははっ!」


駄目だ。もう、おかしくて笑うしかない。
だって、クッキー!
ボロボロじゃないか。
投げるからだ。
プレゼントするのに、銀紙って何だ。
本当に、これ、意地悪とかじゃないか?大丈夫か?
ねぇ。正解か?
これが、正しいプレゼントの渡し方か?


「あー!アホーー!」
「第一、流星群なんて、私が、見るわけないじゃん!」
「っ、ねぇ!」


部活帰りの空は、もう真っ暗なんだよ。

でもまだ、流れ星を見れる時間なんかじゃない。
もっと、もっと、夜にならなきゃ流星群なんて見れない。

私は、悪いけれど乙女じゃないのだ。

だから、とりあえず。
銀紙の星くずで、満足して笑ってやるのだよ。ね。

                                          終
by yoseatumejin | 2009-10-27 22:48 | 短文/(計19こ)


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