人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「みんなの世界」(01)

《地下の世界》


「タケシ!おつかいに行って来てちょうだい」
「えー、やだよ」
「ワガママ言ってんじゃないよ。お前が、みんなのお茶わん割っちゃったんじゃないか」
「やだ!やだ!やだ!」

 タケシが駄々をこねたので、母ちゃんはポカリと一発拳固しました。

「痛ってー!!」
「はい、コレ。父ちゃんと、母ちゃんと、お前の茶わん代。おつりはないからね!」
「えぇー!母ちゃんのケチンボ!」
「ウルサイね!ウチは貧乏なんだよ!」
「とにかく、行っといで!それと、お前はバカなんだから、ちゃんと周りを見て気を付けるんだよ」

 母ちゃんはそう言うと、タケシを玄関から叩き出し、ピシャンと戸を閉めました。

「くっそー!意地悪ババァ!死ね!」
 タケシはブーブーふくれて母ちゃんに悪態を吐いた後、仕方なくおつかいに出かけました。

 しばらく歩くと、タケシは
『お茶わん、壺、土鍋、花びんなど。ココにありマス』
 と書かれた看板を見つけました。その隣には、ポッカリと大きな穴が空いています。
 タケシはその穴を覗き込むと、
「お茶わんはこの中かぁ〜。あー、めんどくさいなぁ。あの鬼ババァが閉め出すから悪いんだ!帰ったら、ゼッタイ文句言ってやる!」
 と、心に決め穴の中に飛び込みました。

 シュルルー、シュルルー、シュルシュルシュ〜。

 シューシュシュシュー。

 タケシの飛び込んだ穴は、どうやらとても深かった様でなかなか下に着きません。
(んん??オカシイぞ?どうなってるんだ?)
 タケシがちょっと不安になった時。

 カシャン!という音がして、穴の底に着きました。

「うぉ!わぁ!スゲー!茶わんがいっぱいあるぞ!」
 そこには一面にお茶わんが転がっていました。まるで、お茶わん畑です。
 タケシはさっそく、『品定め』を始めました。
「やっぱり、一番デカイのが父ちゃんのだ」
「母ちゃんは、太ってるから小さいヤツにしてやれ」
「オレは、変な形のやつがいいなー」
 お茶わんは、うなるほど転がっています。
 タケシは、このおつかいはなかなか楽しいなと思いました。

 一方。
 穴の上は、大騒ぎになっていました。
 子供が落ちたと、黒山の人だかりです。
 『つりぼり食器店』の社員達が、総出でタケシの落ちた穴に釣り糸を垂らしています。
 母ちゃんは、穴にむって何度もタケシの名前を呼びました。
「タケシ!タケシ!」
「あぁ!お前はなんて、バカなんだい!茶わんを釣って来る所か、つりぼりの穴に落っこちるなんて!」
「縄文時代の貝塚まで、おつかいにやる母親がこの世のドコに居るもんか!」
「帰っておいでー!タケシー!!」

 しばらくすると、品定め中のタケシの上に、救出のための釣り糸が沢山垂れて来ました。
 けれど頭の上を釣り糸がチョロチョロしてウルサイので、タケシはそれをみんな千切って捨てました。
「ん?何だコレ?邪魔くさいなー!」
「お!あっちに大きな茶わんがある!行ってみよう」

 ....どうやら、タケシのおつかいは長くつきそうです。


   おわり
by yoseatumejin | 2006-03-31 15:46 | 短文/(計19こ)


<< 3*31=真綾ちゃんB.D♪ ふーちゃんのクッキーっ☆ベリー! >>